
年齢を重ねるにつれて「硬いものが噛めない」「食事が楽しめない」と感じる方が増えてきます。でも実は、「噛めない」という状態は、ただの不便では終わりません。筋力や認知機能の低下、栄養不足など、体全体の老化を加速させてしまうリスクがあるんです。
この記事では、噛む力の大切さや予防のために歯科でできること、そして家族ができるサポートについてご説明します。
目次
噛めないとどうなる?筋力・認知・栄養への影響

「最近、食事の量が減った」「なんとなく元気がない」と感じている高齢者の背景には、“噛む力の低下”が隠れているかもしれません。
筋力の低下(サルコペニア)
噛む回数が減ることで咀嚼筋(そしゃくきん)をはじめ、首や顔まわりの筋肉も衰えがちに。その結果、食欲低下や運動量の減少にもつながり、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)の進行リスクが高まります。
認知機能の低下
噛むことで脳に刺激が送られ、前頭葉の血流が活発になります。しかし、噛む力が弱まるとその刺激が減少し、認知機能に悪影響を及ぼす可能性があることが、いくつかの研究で報告されています。
栄養バランスの崩れ
噛めないことで、やわらかい麺類やパン、甘いものに偏りやすくなります。タンパク質やビタミン・ミネラルの摂取が不足し、栄養失調気味になることも。これは免疫力の低下や、褥瘡(じょくそう)などのリスクにもつながります。
“噛めない=老化のサイン”を見逃さないために
「最近、硬いものが噛みにくくなったな…」そんな小さな違和感、見過ごしていませんか?
実は“噛めない”という状態は、老化の初期サインのひとつ。口の機能が衰えることで、全身の衰えにまでつながってしまうことがあるのです。
“噛む力の低下”は、老化の入り口サイン
「噛めない=口の筋力が落ちている」ということ。その背景には、舌の動きの悪さ・歯のグラつき・唾液の減少など、複数の老化現象が関わっています。
これらの機能が低下すると、以下のようなリスクが増加します。
食事の満足感が減って、栄養が偏る
食事中の誤嚥リスクが高まる
会話量が減って、社会的な孤立につながる
活動量が減少し、フレイルが進行する
つまり、「噛めない」を放置してしまうと、心と体の両面で老化を加速させるスイッチになり得るのです。
「あれ?」と思ったら、まず“口の機能チェック”を
厚生労働省も推奨している「オーラルフレイル対策」では、以下のような“気づきのサイン”が重要視されています。
- 噛むのに時間がかかる
- 食事中によくむせる
- 食べるのが面倒に感じる
- 滑舌が悪くなった
- 口の中が乾きやすい
このような変化が現れたら、予防歯科での機能チェックがおすすめです。簡単な質問票や咀嚼力測定、舌圧・口唇圧の測定などで、口の機能レベルを客観的に確認できます。
“気づけた”今がチャンス!進行を止めるためにできること
「老化かも…」と気づけたときこそ、対策のスタートライン。歯科医院では以下のようなサポートが受けられます。
噛みにくさの原因の特定(歯・義歯・噛み合わせなど)
義歯や被せ物の調整で咬合力の回復
舌や口周りの筋トレ(オーラルリハビリ)指導
食べやすい・噛みやすい食事の工夫アドバイス
噛む力を維持できれば、栄養状態も改善し、活動意欲も回復します。
“噛めない”というサインに早く気づき、歯科でケアを受けることが、健康寿命を延ばす第一歩になるのです。
噛む力を守るには「歯」と「歯ぐき」のケアが必須

「年だから仕方ない」とあきらめる前に、まずは歯科医院で現状をチェックしてもらいましょう。
噛む力を維持するには、歯と歯ぐきの両方の健康がカギを握ります。
歯を失う原因は?
日本では、歯を失う主な原因として「歯周病」が多く、実は虫歯よりも深刻です。高齢者の約7割が何らかの歯周病を抱えているとされており、初期段階では自覚症状がないため、気づいたときには手遅れというケースも。
歯ぐきが痩せると…
歯ぐきの退縮(下がること)や炎症が進むと、歯がグラグラして噛みにくくなります。さらに、入れ歯や被せ物の安定性にも悪影響が出るため、「食べづらい」「外れやすい」と感じる原因に。
定期的なメンテナンスの効果
厚生労働省の「歯科疾患実態調査(2023年)」でも、定期的な歯科健診を受けている高齢者ほど、自分の歯が多く残っている傾向が見られました。
定期的な歯磨き指導や歯垢除去、義歯の調整を行うことで、「噛める状態」を長くキープできます。
今すぐ始めたい食支援とオーラルフレイル対策

「オーラルフレイル」という言葉、聞いたことがありますか?
これは、“口の機能の軽度な衰え”を指し、全身のフレイル(虚弱)につながる前段階です。
オーラルフレイルのサイン
口腔機能が衰えてくると、様々な症状が出てきます。早めに気づくことが大切です。
口が乾く
噛みにくい・食べにくい
話すと疲れる
飲み込みづらい
早期に気づいて対策を取れば、進行を止めることができます。
食支援の工夫
- 食材を小さめに切る
- 調理で柔らかさを調整
- 「一口30回噛む」などの意識づけ
- 栄養士のアドバイスを受ける
歯科と連携した「食支援外来」や、かかりつけ歯科での食事指導も積極的に利用しましょう。
家族ができるサポート方法も紹介
「うちの親、あまり噛めてないかも…」と気づいた家族による手助けが、オーラルフレイル予防の第一歩になります。
こんなサインがあれば要注意
お口の機能が衰えてくると、以下のようなことが頻繁に起こるようになります。
よくむせる
柔らかいものばかり食べている
食事の量が減っている
食べるのに時間がかかる
気づいたら、無理に責めず「一緒に歯医者さんに行ってみようか」とやさしく声をかけましょう。歯医者を嫌がる場合は、また日を改めて誘ってみましょう。
家族ができるサポート
お口の環境が今より悪くならないために、ご家族にも出来ることがあります。無理をする必要はありませんので、出来ることから少しずつ行っていきましょう。
- 歯科健診への付き添い
- 噛みごたえのあるメニューを一緒に楽しむ
- 入れ歯のケアを見守る
- 定期的な声かけでモチベーションアップ!
歯科は「治療する場所」だけではなく、「健康寿命を支える場所」でもあります。家族の伴走が、噛める未来を守ります。
まとめ
“噛む力”は、健康寿命を延ばすカギ!
「噛めないから仕方ない」とあきらめる前に、歯科でできることがたくさんあります。咬合力のチェックや入れ歯の調整、食事のアドバイスまで、総合的にサポートできるのが歯科の強みです。
“噛む力”は、「食べる楽しみ」「元気な毎日」を守るために欠かせない要素。気になることがあれば、まずは歯科健診を受けてみましょう。そして、家族みんなで「オーラルフレイル予防」を始めませんか?