矯正治療にはどんなリスクや副作用がありますか?
矯正治療は歯並びや噛み合わせを整えるための効果的な治療ですが、医療行為である以上、いくつかのリスクや副作用が存在します。ただし、多くは適切な対策や定期的なケア、丁寧な説明を受けることで十分にコントロールできます。
この記事はこんな方に向いています
- 矯正治療を検討しているが、リスクをきちんと知っておきたい方
- 子どもの矯正治療を考えている保護者の方
- スタート前に「想像していなかった不安」を解消したい方
- 失敗しないために、情報を整理して理解したい方
この記事を読むとわかること
- 矯正治療で起こり得る代表的なリスクや副作用
- それぞれのリスクがなぜ起こるのか
- リスクの軽減策や、治療前に確認すべきポイント
- 安心して矯正治療を進めるために意識しておくべき重要事項
目次
矯正治療中に歯が痛くなることはありますか?
矯正治療では、歯をゆっくり動かすための力が加わることで、数日〜1週間ほど歯に痛みや違和感が出ることがあります。ただし、この痛みは治療が順調に進んでいるサインであり、適切な調整とケアを行うことで多くの場合問題なく落ち着きます。
歯が動く刺激による痛みは一時的で、多くの人にみられる副作用です。
歯が新しい位置へ移動する際、歯の周囲にある歯根膜という組織が圧迫されたり引っ張られたりします。このとき、歯の周囲に弱い炎症反応が起こり、ズーンと重い痛みや、噛むと響くような感覚が生じることがあります。
痛みには個人差がありますが、次のような特徴があります。
痛みの出やすいタイミング
- ワイヤーを交換した直後
→ 歯にかかる力が変わるため。 - 新しいマウスピースに交換した直後
→ フィット感が高く、歯が動き始める瞬間に負荷がかかるため。 - 硬いものを噛んだとき
→ 普段より強い刺激が歯に伝わり、敏感になりやすい。
痛みをやわらげる方法
- 柔らかい食べ物を選ぶ(スープ、煮物、豆腐など)
- 痛み止めを短期間だけ使用
- 過度な噛みしめを避ける
- 指で歯を押さえる癖を控える
矯正治療中の痛みは、多くの人にとって避けられない副作用の一つです。とはいえ、痛みは歯が動いている証でもあり、通常は数日で落ち着きます。過度な痛みが続く場合は、我慢する必要はありません。歯科医師に相談することで、装置の調整や痛みの原因を確認できます。
矯正治療後に“後戻り”するリスクはありますか?
矯正治療で整えた歯並びは、治療後も歯ぐきや骨が安定するまで時間が必要です。この期間に適切な保定を怠ると、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起こる可能性があります。ただし、保定装置(リテーナー)を適切に使用することで大きく予防できます。
保定をしっかり行わないと後戻りが起きる可能性があります。
矯正で動かした歯は、周囲の骨や組織がまだ安定していないため、元の位置へ戻ろうとする力が働きます。この力は強く、治療が終わった直後は特に後戻りしやすい状態です。
後戻りが起こりやすい原因
- 保定装置を装着しない・サボる
→ 保定は治療の一部であり、装着時間が不足すると歯が戻りやすい。 - 舌の癖や口呼吸などの習慣
→ 治療後も悪い習慣が残ると、歯に常に力がかかり位置がずれることがある。 - 成長期の骨の変化
→ 子どもは顎の成長が続くため、変化に伴って歯が動くことがある。
後戻りを防ぐためにできること
- リテーナーを指示通り使う
→ 最初の1〜2年は特に重要。 - 舌癖の改善トレーニング(MFT)
→ 舌の押し当てや飲み込み癖を整える。 - 口呼吸を改善する
→ 鼻呼吸への切り替えは歯並びにも関係する。
後戻りのリスクは、矯正治療を受けたすべての人に起こり得ます。けれど、保定装置の使用状況や習慣の改善により、後戻りは大きく防げます。治療が終わった後こそ、油断しない姿勢が大切です。
歯根吸収はどのくらいの頻度で起こるのですか?対策は?
歯根吸収とは、歯の根が治療中に短くなる現象です。頻度は高くありませんが、強い力をかけたり、もともとの歯の状態によって起こることがあります。定期的なレントゲン撮影で早期に把握し、対策を取ることが可能です。
歯根吸収はまれに発生しますが、管理すれば大きな問題に発展しにくいリスクです。
歯が動く過程で根の先端がわずかに吸収されることがあります。ほとんどは軽度で、日常生活に影響するほどではありませんが、まれに進行するケースがあります。
歯根吸収が起こる理由
- 過度な矯正力
→ 強すぎる力は根の先端にストレスをかけやすい。 - 長期間の移動
→ 移動量が多いと負担が大きくなることがある。 - もともとの歯の形や構造の問題
→ 細長い根の形の場合、吸収が進みやすい傾向。
対策
- 適切な矯正力の設定
→ 歯科医師が細かく調整することで予防できる。 - 定期的なレントゲン撮影
→ 変化を早期に確認し、必要なら治療計画を調整。 - 過剰な歯の移動を避ける治療計画
→ 無理のない動かし方が重要。
歯根吸収は決して多い副作用ではなく、発生したとしても軽度であることが大半です。定期チェックを丁寧に行うことで、より安全に治療を進めることができます。
矯正装置によって虫歯や歯周病のリスクは高まりますか?
矯正装置を装着すると、装置の周りに歯垢が残りやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが高まることがあります。とくにワイヤー矯正では清掃が難しくなるため、普段以上に丁寧な歯磨きと定期的なクリーニングが必要です。対策を徹底することで、リスクは十分にコントロールできます。
矯正中は歯垢が溜まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが上がりますが、丁寧なケアで予防できます。
矯正治療中は装置が複雑な形状をしているため、食べ物の汚れや歯垢が付着しやすくなります。ワイヤー矯正の場合、ブラケットの段差やワイヤーの下に汚れが残りがちで、マウスピース矯正でもマウスピース内に細菌が増えやすい状況になります。
とくに起こりやすいトラブルを挙げると次の通りです。
虫歯のリスク
- 歯垢が装置周囲に溜まる
→ 段差や溝が多いため、磨き残しが起きやすい。 - 甘い飲み物を口に含んだままマウスピースを装着してしまう
→ 装置内で細菌が増えやすい状態になる。
歯周病のリスク
- 歯ぐきの腫れ・出血
→ 磨きにくい部分に歯垢が蓄積すると炎症が起きやすい。 - 口呼吸の癖がある場合
→ 口の中が乾燥し、細菌が増えやすくなる。
対策
- 1本ずつ時間をかけた歯磨きを行う
→ ワイヤー周辺は特に丁寧に磨く必要がある。 - デンタルフロスやタフトブラシを併用する
→ 装置の裏側や隙間の汚れが落としやすくなる。 - マウスピースは毎日清潔に保つ
→ 専用の洗浄剤を使用すると細菌の繁殖を抑えられる。
矯正治療中の虫歯・歯周病のリスクは確かに高まりますが、適切なケアを続ければ十分に予防できます。治療中にこそ「普段以上の清潔さ」を意識することが大切です。
矯正治療で歯ぐきが下がることはありますか?
矯正治療によって歯が大きく動いたり、もともと歯ぐきが薄かったりすると、歯ぐきが少し下がる(歯肉退縮)ことがあります。放置すると知覚過敏や見た目の変化につながるため、治療前の診査と適切な計画が重要です。
歯ぐきが下がる可能性はありますが、適切な診断と治療計画でリスクを抑えられます。
歯肉退縮は矯正治療の副作用の一つとして知られています。とくに、歯を外側へ大きく移動させる場合、歯ぐきの薄い部分が影響を受けやすくなります。
歯ぐきが下がりやすいケース
- もともと歯ぐきが薄いタイプ
→ 移動量が多いと歯根が露出しやすい。 - 強い歯磨きを続けている方
→ 力の入れすぎによって歯ぐきが傷つき、下がる原因になる。 - 歯周病の既往がある方
→ 組織が弱っており、退縮が起きやすい。
症状
- 歯が長く見える
- 冷たいものがしみる
- 歯と歯の間にすき間ができる
対策
- 治療前の精密検査で歯ぐきの厚みを確認する
→ CT撮影などで骨の状態も事前に把握する。 - 無理な方向への移動を避ける
→ 専門性の高い矯正歯科で計画を立てることが重要。 - 歯ぐきの移植術を併用するケースもある
→ 歯ぐきを補うことでリスクを下げられる。
歯肉退縮は誰にでも起こる副作用ではありませんが、一定の条件が重なると発生する可能性があります。治療前の診断と丁寧なケアが予防の大きなポイントになります。
治療中に装置が壊れたり外れたりすることはありますか?
矯正装置は精密機器であり、生活習慣や食べ物の種類によって壊れたり外れたりすることがあります。応急対応と、装置の扱い方を理解しておくことで、トラブルは最小限に抑えられます。
装置の破損は起こり得ますが、正しい扱いと早めの連絡で大きな問題にはなりにくいトラブルです。
矯正中は日常生活での衝撃や食事内容によって装置がトラブルを起こすことがあります。特にワイヤー矯正はパーツが小さく、固定している接着剤にも限界があるため、外れが発生することがあります。
よくある装置トラブル
- ブラケットが外れる
→ 硬いものを噛んだときや外部からの衝撃で外れる場合がある。 - ワイヤーが飛び出す
→ ワイヤーの先端が頬や舌に当たり痛みが出ることも。 - マウスピースが割れる・変形する
→ 熱い飲み物や強い噛みしめで変形しやすい。
対処方法
- ブラケットが外れたら無理に触らず連絡する
→ 勝手に戻そうとすると破損を広げる可能性がある。 - ワイヤーが当たる場合はワックスで保護する
→ 応急的に痛みを避けられる。 - マウスピースは指示通りに保管し、熱に注意する
→ 変形すると正しく歯が動かなくなる。
予防のポイント
- 硬い食べ物を避ける(ナッツ・氷・硬いおせんべいなど)
- 爪を噛む癖を控える
- マウスピースを外した状態での保管ミスに注意する
装置の破損は珍しいことではありませんが、適切な扱いを続ければ発生頻度は大きく減らせます。壊れても「すぐに相談する」ことが最も安全な対策です。
金属アレルギーや発音の変化はありますか?
金属を使用する矯正装置では、まれに金属アレルギーが起こる可能性があります。また、舌の位置が変わることで一部の発音がしにくくなることがあります。どちらも適切な選択や慣れによって改善・解決が可能です。
金属アレルギーや発音の変化は起こる可能性がありますが、材料選択や慣れで対策できます。
矯正装置には金属が使われていることが多く、金属アレルギーを心配される方もいます。近年では素材の選択肢が多く、金属アレルギーのリスクがある方は使用する素材を変更することが可能です。
一方、発音に関しては、装置が舌の動きを妨げることで「さ行」「た行」が発音しにくくなることがあります。これはほとんどの場合、慣れとともに改善していきます。
金属アレルギーが起こるケース
- ニッケルアレルギーがある
- 皮膚に金属反応が出やすい体質
- 長期間、金属に接触している場合
発音の変化が出るケース
- 舌側矯正(裏側矯正)の治療を行う場合
- マウスピース装着直後
対策
- 金属を使わない装置(セラミックブラケットなど)を使用する
- マウスピース矯正への切り替えも検討できる
- 発音の練習を続けることで徐々に改善
- 違和感が強い時期はゆっくり話す習慣を持つ
金属アレルギーや発音の変化は起こり得ますが、素材の選択や練習で改善できる副作用です。治療前に体質や希望を共有し、装置選択を丁寧に行うことが大切です。
まとめ
リスクを理解することは「安心して進めるための第一歩」
矯正治療には効果だけでなく、さまざまなリスクや副作用が存在します。しかしその多くは、
- 適切な治療計画
- 丁寧なケア
- 定期的なチェック
- 患者さん自身の協力
で大きく軽減できます。
「リスクがあるから不安」というよりも、“何を知って、どう対策すれば安心して進められるか”を理解することが何よりも大切です。
矯正は長い期間をともに歩む治療だからこそ、医師との信頼関係や情報の共有が欠かせません。疑問や不安は遠慮せず相談し、納得したうえで治療を進めることで、より良い結果にたどり着けます。

