
親知らずの抜歯は、歯科医院での処置が難しい場合や、全身疾患がある場合には大学病院で行うことになります。大学病院での親知らず抜歯にかかる費用は、基本的には保険が適用されますが、診察や検査内容、紹介状の有無によって金額が異なります。大学病院で親知らずを抜歯する際の流れと費用についてご説明します。
大学病院で抜歯が必要な理由
専門性の高い治療が求められる場合
大学病院には口腔外科の専門医が多数在籍しており、複雑な症例にも対応できる技術と設備があります。高度な画像診断装置(CTスキャンなど)が揃っているため、親知らずが神経や他の歯と近接している場合などに的確な診断が可能です。
緊急対応が可能
大学病院では、抜歯後に起こる可能性のある出血や感染症などの合併症に迅速に対応できる体制が整っています。
全身疾患を有する患者さんへの配慮
心疾患や糖尿病などの全身疾患を有する患者さんは、一般の歯科医院では対応が難しい場合があります。そのため、大学病院で全身管理を行いながらの安全な抜歯が行われます。
大学病院での抜歯が必要なケース
以下のようなケースでは、大学病院での抜歯が推奨されます。
1. 埋伏智歯(親知らずが骨に埋まっている場合)
親知らずが完全に骨の中に埋まっているケースは、「埋伏智歯」と呼ばれます。この場合、通常の抜歯では取り除けないことがあります。特に水平埋伏している親知らずは、顎の骨を削る必要があるため、専門の技術が必要です。
骨を削る必要がある場合
骨を削らないと歯を露出させることができない場合、専用の器具や技術が必要です。大学病院では高性能な切削器具やCTスキャンを活用し、神経や周辺組織を傷つけないよう正確に施術します。
歯根の位置が複雑な場合
歯根が複数に分かれている場合や、湾曲している場合は抜歯の難易度が高まります。大学病院では歯根の形状を事前に把握し、安全な手術が行えます。
2. 神経や血管へのリスクが高い場合
下顎の親知らずが下歯槽神経に近接している場合、抜歯中に神経損傷を引き起こすリスクがあります。この損傷により、一時的または永続的な感覚麻痺が発生することもあります。大学病院ではCTスキャンを用いて精密に神経の位置を確認し、安全な手術を行います。
CTスキャンによる診断
大学病院ではCTスキャンを使用して神経との距離を詳細に測定します。必要に応じて、神経を傷つけない特殊な手技(コロネクトミーなど)を実施します。
血管損傷のリスク
親知らずが顎骨内の血管に近接している場合、大量出血のリスクがあります。大学病院では、止血材や輸血が可能な環境が整備されています。
3. 智歯周囲炎や深刻な感染症を伴う場合
親知らず周辺に炎症が起きる「智歯周囲炎」や、感染が顎骨や顔面にまで広がる「顎顔面感染症」の場合、早急な処置が求められます。大学病院では抗菌薬の全身投与や感染の広がりを抑えるための外科的処置が可能です。
智歯周囲炎
智歯周囲炎は、食べ物の詰まりや歯垢(プラーク)が原因で起こります。感染が進むと、腫れや強い痛みを伴い、開口障害(口が開きにくくなる症状)が現れることがあります。大学病院では、抗生物質治療や切開排膿を行い、炎症を抑えた後に抜歯を実施します。
顎顔面感染症
感染が広がると、顎骨の壊死や全身性の症状(発熱や倦怠感)が現れることがあります。こうした場合、外科的な感染除去や抗菌薬の点滴投与が必要となります。
4. 全身疾患を持つ患者さんへの対応
以下のような全身疾患を有する患者さんの場合、安全な抜歯のために大学病院での対応が推奨されます。
心疾患
抜歯時のストレスや出血が心臓に負担をかけるリスクがあります。大学病院では、心電図モニタリングや必要に応じた心臓専門医との連携が可能です。
糖尿病
糖尿病患者さんは感染症にかかりやすいため、術後の管理が重要です。大学病院では血糖値をコントロールしながら安全な抜歯を行います。
血液疾患(血友病や抗凝固薬服用者)
血液が固まりにくい状態では、出血管理が難しいため、特殊な対応が必要です。大学病院では、凝固因子製剤の投与や専門医の監督下で処置を行います。
5. 顎関節症や口腔構造が特殊な場合
顎関節症や顎骨の形態異常がある患者さんでは、以下のような対応が必要です。
開口制限がある場合
顎関節症を持つ患者さんの場合、口を大きく開けることが困難で、通常の歯科治療が難しい場合があります。顎関節症により口が大きく開けられない場合、特殊な器具を使用して施術を行います。大学病院では、麻酔や鎮静剤を併用し、患者さんの負担を軽減します。
顎骨の形態異常
顎の骨が非常に薄い場合や、骨が変形している場合には抜歯中の骨折リスクがあります。顎の骨の形状が特殊で抜歯が複雑になる場合も大学病院が適しており、顎骨補強材を使用した手術が行われることがあります。
6. 全身麻酔や鎮静下での抜歯が必要な場合
抜歯に恐怖心が強い患者さんや、複数の親知らずを一度に抜歯する必要がある場合には全身麻酔が選択されることがあります。全身麻酔は一般歯科では対応できないため、大学病院で行われます。全身麻酔の場合は追加の費用がかかります。
全身麻酔が可能な環境
全身麻酔には高度な管理が必要であり、大学病院では麻酔科医が常駐しています。手術室では、安全に抜歯を行うための監視機器が整備されています。
鎮静法を活用した抜歯
鎮静法により、患者さんの不安を和らげながら痛みの少ない抜歯が可能です。
7. 術後の管理が特に重要な場合
親知らず抜歯後には、腫れや出血、痛みが伴いますが、大学病院では術後の管理が徹底されています。
術後感染の予防
抜歯部位に細菌感染が起こらないよう、抗生物質の投与や消毒が行われます。大学病院では経過観察のための健診が定期的に実施されます。
合併症の対応
ドライソケット(抜歯後に血餅が剥がれる症状)などが発生した場合も、迅速に適切な処置を受けられます。
親知らずの抜歯にかかる値段・費用

✔︎地域の歯科医院・・・医院によって異なる
✔︎大学病院・・・おおむね9000円前後
地域の歯科医院では手に負えないような抜歯や、高血圧や心臓病などがある場合は大学病院での抜歯となります。代表的なのは歯茎に埋まっている、親知らずの抜歯です。
大学病院での抜歯は、保険適用が可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 診察料や検査料が加算されるため、一般歯科よりも費用が高くなる場合があります。
- 全身麻酔や入院が必要な場合、さらに費用が増加する可能性があります。
大学病院での抜歯の流れと費用

大学病院での親知らずの抜歯のおおまかな流れをご紹介します。
初診・検査
受付 → 診察(+CT・レントゲン撮影)→ 抜歯日の決定・予約
- 歯科医院の紹介状を持参し、大学病院で初診を受けます。
- レントゲンやCT検査を行い、親知らずの位置や神経との距離を確認します。
かかる費用
検査の種類によっても変わってきますが、1回目はおおむね1000〜6000円ほどの費用がかかります。
地域の歯科医院からの紹介状がなくても、大学病院で診てもらうことはできます。しかし紹介状がある場合と、紹介状がない場合ではかかる費用が変わってきます。紹介状を持っている方がスムーズでかつ安いです。
治療計画の立案
- 抜歯に伴うリスクや手術の方法について詳しく説明を受けます。
- 必要に応じて事前の血液検査や全身疾患の管理が行われます。
抜歯手術
受付 → 抜歯 → 消毒日の予約
- 日帰りで可能な場合と、入院が必要な場合があります。
- 抜歯後の経過観察や痛み止め、抗生物質の処方が行われます。
かかる費用
抜歯当日かかる費用はおおむね1000〜3000円です。親知らずの生え方によって抜歯の費用は変わってきます。抜歯の目的なさまざまですが、歯並び矯正のための抜歯であれば保険がききません。そのためさらに費用がかかります。
術後フォローアップ
受付 → 消毒・創部の洗浄・抜糸 →終了
- 1〜2週間後に健診を行い、傷の治癒状況を確認します。
かかる費用
3回目以降は抜歯したところの消毒や抜糸です。1回あたり1000円~3000円程度のことが多いでしょう。
抜歯したところの治り具合にもよりますが、抜歯後1週間ほどで抜糸となります。その後も消毒・経過を確認し、治り次第大学病院の役目は終了となります。
大学病院では紹介状に記載の内容のみ行うのが基本です。そのため親知らずの抜歯・診察が終了したら、元の地域の歯科医院へ戻るよう指示を受けます。
まとめ

大学病院で抜歯となると急に緊張される方も多いようです。今回ご紹介したのはあくまで目安です。基本的には保険がききますが、念のため多めに準備して行くことをおすすめします。紹介状をもらった場合はそちらも忘れずに。