
一般的には、歯列矯正は保険適用外とされており、費用が高いことが治療を迷わせる一因となりますが、特定の条件を満たす場合には保険が適用されます。歯列矯正が保険適用となるケースやその条件、費用負担を軽減するための方法についてご説明します。
歯列矯正は保険がきく?

歯列矯正では、基本的に保険がききません。これは全国どこの歯医者に行っても同じです。そのため歯列矯正の治療中、基本的には保険証は必要ありません。
ただ、一定の条件が認められると歯列矯正にも保険が適用されます。その条件をご紹介します。
歯列矯正が保険適用にならない理由とは?
歯列矯正は、多くの場合 健康保険が適用されず 自費診療となります。これは、矯正治療が基本的に 「美容目的の治療」 とみなされているためです。しかし、一部の特定の症例では保険適用となるケースもあります。
1. 矯正治療が「審美目的」とみなされるため
健康保険は 「病気やケガの治療」 を目的とした医療行為に適用される制度です。日本の公的医療制度では、歯列矯正は 「病気の治療」ではなく、美容や見た目の改善を目的とした治療」 と位置づけられています。
確かに、歯並びが悪いことで咀嚼機能が低下したり、歯垢が溜まりやすくなって虫歯や歯周病のリスクが高まることは事実です。しかし、多くの矯正治療は 「機能的な問題」よりも「見た目を整える目的が強い」 と考えられており、そのため 健康保険が適用されない のです。
2. 健康保険の適用範囲と矯正治療の関係
健康保険の適用範囲は、 「生活に支障をきたす病気やケガを治療すること」 に限られています。そのため、たとえば以下のような治療は保険適用となります。
- 虫歯や歯周病の治療
- 抜歯や歯の欠損の治療
- 事故や病気による顎の損傷の治療
しかし、 「歯並びを整える」 こと自体は 生活に大きな支障をきたすものではない とされるため、保険の適用外となるのです。
3. 例外的に保険適用となるケース
すべての矯正治療が自費診療になるわけではありません。以下のような 「特定の症例」 では、例外的に保険適用となることがあります。
① 顎変形症(がくへんけいしょう)
- 上顎や下顎の大きさや位置の異常により、噛み合わせが大きくズレているケース。
- 外科手術を伴う矯正治療 が必要と診断された場合、保険適用となる。
② 先天性疾患による咬合異常
- 「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」
- 「ダウン症」
- 「クルーゾン症候群」
- 「ピエール・ロバン症候群」
- 「鎖骨頭蓋異形成症」 など
上記のような 厚生労働省が定める疾患(先天的な異常) によって不正咬合が生じている場合、矯正治療が 健康保険の適用対象 となります。
③ 永久歯が先天的に欠損している場合
- 永久歯が生まれつき足りない(先天性欠如歯)
- この場合、咬み合わせに影響が出るため、保険適用になることがある。
歯列矯正で保険適用になるとき

国が認めた疾患に当てはまる場合=疾患による歯並びの異常であるとされた場合は、歯列矯正に保険が適用されます。
また以下のような疾患であっても、国に申請している歯医者でないと保険がききません。歯列矯正を受ける前に歯医者に確認してみましょう。「○○という疾患なんですが、歯並びを治すのに保険はききますか?」という聞き方で良いと思います。
1. 唇顎口蓋裂の場合
唇裂や口蓋裂などの先天性異常は、幼少期から手術や歯列矯正が必要とされる場合が多く、これに対する治療は医療保険の対象となります。これらの疾患は、口の機能(食べる、話す、呼吸するなど)に影響を与えるため、矯正治療も含めて医療的な必要性が認められます。
唇顎口蓋裂とは?
妊娠初期 (6~11週頃) に、胎児の顔面を形成する組織の融合が何らかの原因で上手くいかず、その部位に裂け目が残ってしまうこと。唇が裂けた口唇裂、口蓋が裂けた口蓋裂、上あごの歯茎が裂けた顎裂がある。
参考 日本口腔外科学会
唇顎口唇裂により歯並びの異常・かみ合わせの異常が見られる場合は、歯列矯正に保険が適用されます。
2. ダウン症候群の場合
ダウン症候群とは?
染色体異常による病気。特有の顔貌を示し、全身の筋肉弛緩・心臓の形態異常・ヘルニア・てんかん・乾燥肌・精神発達遅延などを伴うことが多い。
参考 コトバンク
ダウン症候群により歯並びの異常・かみ合わせの異常が見られる場合は、歯列矯正に保険が適用されます
3. 筋ジストロフィーの場合
筋ジストロフィーとは?
遺伝性で、骨格筋の進行性萎縮と筋力低下を特徴とする筋肉の病気。
参考 コトバンク
筋ジストロフィーにより歯並びの異常・かみ合わせの異常が見られる場合は、歯列矯正に保険が適用されます
4. 顎変形症の場合
顎の骨の成長異常や著しい位置のずれによって、正しい咬み合わせができない場合、これを矯正するための治療も保険の適用対象です。顎変形症に伴う咬合不全(例えば、開咬や下顎前突など)は、食事や会話、日常生活に支障をきたすため、医師の診断に基づき治療が行われます。
4. その他疾患がある場合
その他疾患によって歯列矯正の必要性が認められる場合、歯列矯正に保険が適用されます。詳しくは日本矯正歯科学会のサイトでまとめられています。
年齢制限と条件
保険適用の対象となる矯正治療は、年齢に関係なく適用される場合もありますが、成長段階や個々の症状によって異なります。
成長期における治療
特に顎変形症の治療は、成長期に行う場合と成人後に行う場合で保険適用の条件が異なります。例えば、成長がまだ進行中である子供や10代の若年者に対しては、将来的な機能改善を目的として早期の矯正治療が推奨されることが多く、保険が適用されるケースもあります。
成人後の治療
成人後に矯正治療を行う場合、症状が顕著な顎変形や咬合不全に関するものであれば保険適用の対象となることがあります。特に顎の手術を伴う治療では、20歳以降に行われるケースが一般的です。
保険適用になるまでの流れ

保険適用を受けるためには、以下のプロセスを経る必要があります。
1. 矯正医による診断
保険適用の判断は、まず歯科医師の診断に基づきます。歯科医師が機能的な問題や医療的必要性を確認し、矯正が不可欠であると診断します。
2. 診断書の作成
歯科医師が保険適用の必要性を認めた場合、診断書を作成します。この診断書には、治療の理由、必要性、治療内容などが詳細に記載され、保険機関に提出されます。
3. 保険機関による審査
提出された診断書は、保険機関によって審査されます。この過程で、治療の必要性や適用条件が確認され、保険が適用されるかどうかの決定がなされます。審査には通常数週間から数ヶ月を要することがあり、治療を急ぐ場合は早めに手続きを進めることが推奨されます。
4. 適用が認められた後の治療開始
保険適用が認められた後、治療が正式に開始されます。治療の進行中も、定期的に医師による診察や進捗確認が行われます。
できる限り安く歯列矯正をする方法

1. 医療費控除を利用する
医療費控除とは
自分自身や自分と生計を一にする配偶者や親族が、毎年1月1日~12月31日までの一年間に支払った医療費を、その年の所得税から差し引くことができる制度のこと。医療費控除について記した確定申告書を提出することにより利用できる。
引用 コトバンク
医療費控除は、最高で200万円までが控除の対象となります。歯列矯正治療で支払った金額や、通院にかかった交通費などにも適応されます。
医療費控除を受けるためには、翌年の確定申告期間に、近くの税務署へ書類を出さなくてはいけません。
2. 高額療養費制度を利用する
高額療養費制度(高額医療費制度)とは
被保険者の医療費の自己負担額が高額になる場合、負担を軽減するために、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、保険者から払い戻される制度。
引用 コトバンク
高額療養費制度の上限額は、本人の所得や年齢によっても変わります。高額療養費制度については、健康保険組合に申請書を出さなくてはいけません。期間も決まっているので問い合わせてみましょう。
3. デンタルローンを組む
この方法は治療費を安くするというよりは、支払い1回あたりの負担を軽くするものです。
▼デンタルローンについてはこちらでまとめています。
まとめ

歯列矯正は、基本的に保険が適用されない高額な治療ですが、特定の疾患や条件に該当する場合は保険適用が認められる可能性があります。また、医療費控除や高額療養費制度を活用することで、費用負担を軽減する方法もあります。
重要なのは、治療を開始する前に保険適用の条件や利用可能な補助制度について十分に確認し、計画的に進めることです。正しい情報をもとに、自分にとって最適な治療を選び、健康的で美しい歯並びを手に入れましょう。
監修

医療法人真摯会
クローバー歯科クリニック
まつもと歯科
歯列・歯並び・ 咬み合わせのお悩みなら。マウスピース、インビザライン、裏側、小児矯正等。LINE相談可。八重歯、出っ歯、受け口の治療など得意です。大阪梅田、なんば、心斎橋、吹田、豊中、神戸にあります。