
夜間の歯ぎしりや噛み締めは、歯や顎関節に影響を及ぼすだけでなく、歯並びにも悪影響を与える可能性があります。歯ぎしりが歯並びに与える影響やその対策についてご説明します。
歯ぎしりとは?そのメカニズム

歯ぎしり(医学的には「ブラキシズム」)とは、無意識に歯を強く噛み締めたり、上下の歯をこすり合わせる現象です。以下のポイントで歯ぎしりのメカニズムを整理しましょう。
主な原因
- ストレスや不安
- 噛み合わせの問題
- 睡眠時無呼吸症候群などの疾患
歯ぎしりの種類
- 噛み締め:歯を強く押し付ける
- こする:歯を擦る音が出る
影響
- 歯の摩耗や破損
- 知覚過敏
- 歯の位置が変わってくる
- 顎関節症のリスク増加
特に、長期間にわたる歯ぎしりは、歯並びを悪化させる大きな要因となることがあります。
歯ぎしりが歯並びに与える影響

歯ぎしりによって歯並びが悪くなる仕組みを理解するためには、以下の影響に注目する必要があります。
歯の移動
歯ぎしりによる過剰な力が歯にかかると、歯槽骨(歯を支える骨)が徐々に変形して、歯が動いてしまうことがあります。
歯ぎしりの強い力が歯に加わると歯が少しずつ動くことがあり、その結果、歯並びが乱れたり、隙間が生じることがあります。この現象は特に前歯や奥歯で顕著に見られます。歯ぎしりによる持続的な圧力が歯を支える骨にも影響を与え、骨吸収が進むことで歯が緩くなる可能性もあります。長期間にわたる歯の移動は、矯正治療が必要になるほど深刻な歯列不正を引き起こすことがあります。
歯の摩耗
歯ぎしりは歯の表面を削る原因となります。歯のエナメル質が薄くなると、象牙質が露出して歯が敏感になるだけでなく、歯列全体の高さが低下します。
高さが低くなることで、噛み合わせのバランスが崩れ、他の歯にも負担がかかります。その結果、少しずつ歯並びが乱れてくる可能性があります。
歯ぎしりによって歯の表面がすり減ることで、咬み合わせの高さが低くなり、不正咬合を引き起こすことがあります。摩耗が進むと歯の形が変わり、審美面や機能面にも影響します。特に前歯が削れすぎると、発音や噛む能力が低下する場合があります。また、歯のエナメル質が失われることで、象牙質が露出し、冷たいものや熱いものに敏感になることもあります。
顎関節への負担
歯ぎしりは顎関節にも大きな負担をかけ、不正咬合や顎関節症を引き起こす可能性があります。これにより、顎の痛みや音が生じるだけでなく、口の開閉が困難になることもあります。顎関節症が進行すると、顔の筋肉に過剰な緊張が生じ、頭痛や肩こりなどの全身的な症状を引き起こすことがあります。顎関節の問題が歯並びに悪影響を及ぼすと、さらに複雑な治療が必要になる場合があります。
不正咬合の悪化
不正咬合がある患者さんにとっては、歯ぎしりがその状態をさらに悪化させるリスクがあります。例えば、下顎が前に出る癖がある場合、歯ぎしりによってさらに悪化する可能性があります。
また、矯正治療中に歯ぎしりを続けると、治療結果に影響を与える可能性があります。ブラケットやワイヤーに過剰な力がかかることで、治療の進行が遅れたり、望ましい結果が得られないことがあります。さらに、歯ぎしりが矯正装置の破損を招く可能性もあります。その結果、治療期間が延びたり、追加の調整が必要になることがあります。矯正治療を計画する際には、歯ぎしりの対策も同時に考慮することが重要です。
その他のリスク
歯のヒビや割れ
歯ぎしりの強い力が歯に繰り返し加わると、歯にヒビが入ったり、最悪の場合は割れることがあります。歯が割れると、被せ物や詰め物などの修復治療が必要となる場合が多いです。また、歯の割れが進行すると抜歯が避けられないこともあります。特に奥歯はこのような力に弱いため、注意が必要です。
歯茎へのダメージ
歯ぎしりによる過剰な圧力が歯茎にも影響を与えることがあります。歯茎が炎症を起こしたり、下がってしまうことで歯周病が進行するリスクが高まります。歯茎が下がると、歯の根が露出し、知覚過敏や虫歯のリスクが増える可能性もあります。
歯ぎしりによる悪影響を放置するとどうなる?
歯ぎしりを放置すると、歯並びの悪化だけでなく、さまざまな問題が生じるリスクがあります。
歯の損傷
歯ぎしりや食いしばりがあるかどうかは、歯科医師は患者さんの歯を見ればある程度のサインがあり、予測がつきます。
- 歯が欠けたり、詰め物や被せ物が破損する
- 咬合面で知覚過敏が起こる
- 歯の寿命が短くなる
顎関節症
歯ぎしりや食いしばりによる症状の中で、特に患者さんを悩ませるのは顎関節症の症状です。
- 顎の痛みやクリック音(関節が鳴る音)
- 口が開きにくくなる
審美的な問題
- 歯が削れ、笑顔の見た目が悪くなる
- 歯列の乱れが顔のバランスに影響を及ぼす
機能的な問題
- 食事の際にしっかり噛めなくなる
- 発音に影響を及ぼす
全身的な影響
- 歯ぎしりが慢性的に続くと、頭痛や肩こり、首の痛みなど、全身の筋肉や関節に負担がかかる可能性があります。
- 睡眠の質が低下し、日中の疲労感や集中力の低下を引き起こすことがあります。
口腔内の炎症リスク
- 歯ぎしりによる歯の損傷が進行すると、歯周組織に負担がかかり、歯周病のリスクが高まります。
- 歯が動くことで、歯と歯の間に隙間が生じ、歯垢が溜まりやすくなる可能性があります。
これらの問題を予防するためには、早期の対応が欠かせません。
歯ぎしりの予防と対策
歯ぎしりによる歯並びの悪化を防ぐためには、以下のような対策が有効です。
ナイトガードの使用

就寝時にナイトガードと呼ばれる専用のマウスピースを装着することで、歯の摩耗や力の分散を防ぎます。ナイトガードは歯ぎしりから歯を守るもので、歯ぎしりそのものを治すものではありません。
ストレス管理
ストレスをためないことが歯ぎしりの予防になるといわれていますが、直接的な原因はわかっていないため、予防法の中の一つとして覚えておきましょう。
- ヨガや瞑想、リラクゼーション法を取り入れてストレスを軽減します。
歯磨きや定期健診の徹底
- 歯磨きや定期健診を通じて、お口の中の健康を維持します。
噛み合わせの調整
噛み合わせが悪いために無意識のうちに歯ぎしりを起こしている場合もあります。
・歯科医による噛み合わせ治療を受けることで、歯ぎしりを軽減することができます。
生活習慣の改善
- 寝る前にカフェインやアルコールを控え、質の高い睡眠を心がけます。
- 後頭部の出っ張りよりも首の付け根に近い場所に枕を置くと、口が開きやすくなり噛みしめを起こしにくくなります。
- 布団の中は眠るだけのところと決めて、考え事などはしないようにしましょう。
- 布団の中で一度全身にギュッと力を入れてから、フッと力を抜くことで全身を脱力できます。力が抜けた状態で眠るようにしましょう。
歯ぎしりが歯並びに与える影響を軽視しない
歯ぎしりは、長期的には歯並びや顎関節に深刻な影響を与える可能性があります。以下のチェックリストで自分の状態を確認してみましょう。
- 朝起きたときに顎が痛い
- 歯が削れている、または詰め物が頻繁に外れる
- 睡眠中に歯ぎしりを指摘されたことがある
これらに該当する場合は、早めに歯科医を受診することをお勧めします。
まとめ
歯ぎしりが原因で歯並びが悪くなるリスクを防ぐためには、早期の対応が重要です。ストレス管理やナイトガードの使用、噛み合わせの調整など、適切な対策を講じることで、歯や顎の健康を守ることができます。気になる症状がある場合は、早めに歯科医に相談してみましょう。