叢生とはガタガタの歯並びのことで、日本人に特に多い不正咬合です。マウスピース矯正インビザラインで叢生の治療は出来るのか、また、叢生の原因やインビザラインでの治療方法についてご説明します。
目次
インビザラインとは?
インビザラインは、透明なアライナー(マウスピース)を用いた矯正治療の方法です。従来の金属ブラケットやワイヤーを使用せずに、取り外し可能なクリアなマウスピースを歯全体に装着することで、段階的に少しずつ歯を動かします。
インビザラインはアメリカのアライン・テクノロジー社によって開発され、3Dコンピュータ技術を駆使して患者さんお一人おひとりに合わせたカスタムメイドのアライナー(マウスピース)を製作します。アライナーを歯に付けると、歯は徐々にアライナーの形にぴったり合うように移動していき、最終的に歯を理想的な位置へと移動させることが出来ます。
インビザラインの最大の特徴は、透明で目立ちにくいことです。これにより、装着していることがほとんど他人には気づかれません。また、取り外しが可能であるため、食事や歯磨きの際には外して清潔に保つことができます。これにより、口腔衛生の管理が容易である点も大きなメリットです。
アライナーは7~10日程度で新しいものに付け替えます。1枚のアライナーで歯は0.25mm程度動かすことが出来、とてもゆっくり動かすため、ワイヤー矯正や裏側矯正よりも痛みが少ないという特徴があります。また、食事や歯磨きの時にはアライナーを外して普段通り行えます。
推奨されるアライナーの装着時間は1日に22時間以上で、睡眠中も付けたままになります。インビザラインは目立たず、快適に矯正治療を行えることから、特に大人の患者に人気があります。
叢生(そうせい)とはどんな不正咬合のこと?
叢生とはガタガタの歯並びのことで、「乱ぐい歯」とも呼ばれており、歯が重なり合って不規則に生えている状態です。また犬歯が歯列から大きくはみ出して生えてしまう八重歯も叢生の一種です。
歯が並ぶスペースが不足して、歯列が不規則にガタガタと乱れて見えます。叢生は見た目の悪影響だけでなく、歯がデコボコして部分的に重なっているために、食べかすなどが溜まりやすく、歯ブラシでの清掃もやりにくいので虫歯や歯周病になりやすいという問題があります。
叢生の方は前歯だけでなく、奥歯の噛み合わせも悪い場合が多いです。食べ物が噛みにくいという問題を抱えている場合もあり、しっかり噛まずに飲み込むため、内臓に負担がかかっている場合もあります。
叢生を治療することは、単に美しい笑顔を手に入れるだけでなく、口腔内の健康を保ち、全身の健康にも良い影響を与える重要なステップです。インビザラインは、この叢生の治療においても有効な選択肢の一つとなっています。
叢生の原因とは?
叢生になる原因は、一般的には顎が小さいことです。
1. 顎が小さい、歯が大きい
顎が小さい場合は全ての永久歯がきれいに並ぶだけのスペースがないため、一部の歯が重なったり斜めになったりして、歯並びがデコボコになります。
歯の大きさや顎の大きさ、顎の形などは遺伝することがあり、顎が小さい、歯が大きい場合は叢生になりやすい傾向があります。
2. 歯並びを悪くするような癖がある
日頃の癖によって歯並びがガタガタになることがあります。その癖とは、舌で前歯を押す、口呼吸、頬杖、爪噛みなどです。それらの癖によって歯が動いてしまい、歯並びを悪くしてしまいます。
歯並びを悪くするような癖があると、一度矯正治療で歯並びを整えても、また癖によって歯並びが乱れるリスクがありますので、出来るだけ治すようにしましょう。
インビザライン矯正で叢生は治せる?
インビザラインで叢生の治療は可能です。ただし、重度の叢生で抜歯矯正が必要な場合は、インビザラインだけで治療を行うと治療期間が3年程度かかってしまうことがあります。
その場合は、小臼歯を抜歯してから数ヶ月はワイヤー矯正を行い、抜歯後のスペースがかなり閉じた時点でインビザラインに変え、歯並びの細かい調整を行っていくという方法があります。
軽度な叢生はインビザラインで概ね治療可能
叢生の症状が軽度で、歯の重なりやガタガタが少ない場合は、インビザラインで治療が可能なケースが多いです。どの程度を軽度というかは、前歯の重なりや奥歯のずれが少ないことと、抜歯の必要がないということがあげられます。
インビザラインのようなマウスピース矯正では、歯を少しずつ動かして行きますので、抜歯して歯を大きく動かす必要がある治療にはあまり向いていません。
抜歯矯正であっても、インビザラインで治療可能なケースはありますが、ワイヤー矯正の方が早く治ります。
インビザラインで治療出来ない重度の叢生とは?
八重歯や歯の重なりが何か所もある、歯が二重に重なっているなどのケースは重度の叢生に分類されます。
また、骨格に原因があって叢生が起こっている場合、インビザラインでは対応できない可能性があります。
インビザラインは軽度から中程度の叢生に効果的です。しかし、歯列の重度の乱れや顎骨の問題がある場合には、ワイヤー矯正や外科的矯正が必要となることがあります。治療の選択肢を決める際には、歯科医と詳細な相談が必要です。
叢生をそのままにしておくと起こるトラブル
歯並びがガタガタの場合、見た目の悪さから矯正治療を考える方が多いのですが、見た目以外にも歯の健康にかかわるようなトラブルを起こすリスクがあります。
1. 虫歯・歯周病になりやすい
歯が重なり合って八重歯になっている場合や、前歯が重なって1本がへこんでいる場合などでは、歯ブラシで汚れが落としにくく、デンタルフロスも通りにくいため、汚れがたまりがちです。
食べかす等の汚れは歯垢と呼ばれる細菌の塊になり、虫歯や歯周病になるリスクが高まります。歯垢はやがて歯石に変わり、歯石は歯磨きでは落とせませんので、歯科医院でクリーニングを受ける必要があります。
2. しっかり噛めない
歯並びが乱れて叢生になり、噛み合わせが悪いと、食事の際にしっかりと噛めなくなります。噛めないと、食べ物を細かく砕くことが出来ず、消化に悪い影響を与えます。
3. 口臭が強くなる
叢生は歯と歯の間に汚れがたまりやすく、口臭が発生しやすいです。虫歯や歯周病が原因の口臭もありますので、まず歯や歯茎についた汚れを除去する必要があります。
4. 噛み合わせがずれると歯に負担がかかり傷めることになる
叢生によって噛み合わせがずれると、その結果、歯の一定の場所が強く噛み合って、歯を傷めるリスクがあります。その結果、歯が擦り減る、割れる、歯根にヒビが入る等のトラブルが起こり、歯の寿命を縮めてしまうことに繋がります。
インビザラインの効果を最大限に引き出すために
インビザラインで叢生を治療するためには、以下の点に留意しましょう。
- アライナーの装着時間を守る
- 定期的に歯科医の診察を受ける
- アライナーの適切な取り扱いについて
1. アライナーの装着時間を守る
アライナーは1日22時間以上の装着が推奨されます。装着時間が短くなってしまうと治療計画通りに歯が動きませんので、毎日できる限り22時間の装着を行いましょう。
2. 定期的に歯科医の診察を受ける
インビザラインの治療では、通常、2ヶ月に1度の通院が必要になります。追加の処置が必要な場合には、通院回数が少し増える可能性もあります。通院の間隔は、歯科医師の指示に従って行ってください。
3. アライナーの適切な取り扱いについて
アライナーは食事(間食を含む)と歯磨きの時には外します。外食時にも外して食べないと、アライナーが壊れてしまうことがあります。また、アライナーを洗う際には水かぬるま湯で洗い、熱湯には絶対に晒さないようにしましょう。
失くしたり壊したりしないためには、アライナー用の専用ケースを用意することをお勧めします。外出先で外す際には、一時的にケースに入れて保存します。
まとめ
叢生は不正咬合の一種で、日本人に多く見られます。原因は主に顎の小ささにあり、顎が小さく歯が並びきらないために八重歯や歯の重なりが生じます。
叢生は見た目の悪さだけでなく、歯の健康にも影響を及ぼします。歯が重なっていると歯磨きがしにくいために虫歯や歯周病リスクが高まり、噛み合わせの問題や口臭、歯の損傷などが起こる可能性があります。
インビザライン矯正は軽度な叢生に対して効果的ですが、抜歯矯正が必要な場合でも一部のケースでは利用できます。しかし、重度の叢生や骨格に原因がある場合には、他の治療方法が必要かもしれません。叢生の治療は見た目だけでなく、歯の健康と機能を向上させるために重要です。歯医者のアドバイスを受け、適切な治療を検討しましょう。
▼まつもと歯科の矯正治療についてはこちらで詳しく解説しています
インビザラインによる叢生の治療については、以下の論文を参考に説明します。
1. 叢生矯正の有効性
Li and Mai (2017) の研究では、インビザラインを用いたアーチの拡張が、軽度から中程度の叢生を効果的に治療する方法として報告されています。この研究では、叢生の矯正において、中心切歯の傾斜を維持しつつアーチ拡張によって問題を解決しています。【Li & Mai, 2017】
2. 顎骨量への影響
Hellak et al. (2016) による研究では、インビザライン治療と歯間エナメルの削減(IER)が成人の叢生に伴う顎骨量に与える影響を評価しています。この研究では、特に下顎でのアーチの拡大が行われる場合、舌側に顎骨の厚みが増加することが観察されました。【Hellak et al., 2016】
これらの研究から、インビザラインによる叢生の治療は、アーチの拡張を通じて軽度から中程度の叢生を効果的に矯正できる可能性があり、また顎骨量にも影響を及ぼすことが示されています。